第37章 最終決戦 鬼の始祖 後編
陽華は再度、無惨へと視線を戻した。
しのぶが仕込んだ老化の薬。見た目の変化はあるが、実際どれだけ効果があったのか、無惨の変わらない動きを見ていると検討もつかない。しかし、
(……変わってる。)
その中で、一つだけ変わった物があった。
あれだけの柱を相手にしても、けして変わらなかった、あの涼しく余裕な表情。
それがここに来て、怒りの形相へと変化していた。
夜明けが近く、無惨も焦りだしたのか、それとも弱り始めて余裕がないのか?
(…でも、確かめるだけの要素がない。ここはしのぶの薬を信じて、体力を削ぐ為の攻撃を繰り返すしかない…か。)
そんなことを考えていた陽華の目が、異色な動きをする小芭内の姿を捕らえた。
突如、小芭内が握った刀の刀身が、赫く染まり始めたのだ。
「……赫い刀、」
陽華は小さく呟いた。上弦の壱との戦いで、無一郎が発現させた、鬼にも致命傷を与えることが出来るという赫刀。
鴉からの報告で得た情報を推理すると、条件は恐らく熱。柄を握った手に籠もる熱と、高熱状態が続く痣者というのも、条件に入るのかもしれない。
その原理を小芭内は自分で見出し、行ったのだ。
ちょうど今、有効打になる手はないかと、考えていたところだった陽華は、興奮した。
しかし、赫刀を発現させた小芭内の様子がどうもおかしい。フラつき、今にも倒れそうに揺らめいた。
「小芭内!?」
苦しそうに小さく喘ぐ姿にただならぬ物を感じ、陽華は急いで走り出した。
(…まずい、夢中になり過ぎて酸欠になってる!)
他の柱たちも、次々とその異変に気づいた。放心する小芭内に、無惨の攻撃が集中し、焦った実弥が叫んだ。
「伊黒ーー!!」
義勇も助けに走り出す。しかし間に合わず、小芭内がいた場所は、触手の攻撃を受け、その余波で舞い散った砂埃に塗れた。
(伊黒…!!間に合わなかった…!!)
衝撃を受ける義勇と、同じく小芭内を助け出そう走り出していた陽華の視界に、月明かりに照らされ、空を舞う黒い物体が写り込んだ。
二人がほぼ同時に上を見上げると、そこには宙に浮かんだ小芭内の姿があった。