第37章 最終決戦 鬼の始祖 後編
陽華は戦場へ急ぎながらも、市街地の様子を見渡した。昼間なら人通りが多く、賑わうこの場所も今は人の気配はなく、違った顔を見せている。
それともう一つ、この場にそぐわない剣戟音が、少し先から聞こえてくる。
(…まだ、戦ってる。無惨を逃していない。)
戦場に戻り、状況を確認した陽華は、安堵に胸を撫で下ろした。全員、ボロボロな姿ではあるが無事だった。
しかし、苦戦を強いられているのは変わらない。
蜜璃を安全な場所に避難させていた小芭内も戻っている。四人は互いを庇い合いながら、連携して無惨の足止めに奮闘していた。
相変わらず、縦横無尽に暴れまわる無惨の攻撃は、こちらに攻撃する隙を、与えてくれる様子もなかった。
しかし、陽華が離脱した時より、全員の動きがいい。愈史郎の言ってた通り、茶々丸なる人物に血清を打たれたのだろう。
そんな陽華の近くに、無惨の攻撃にふっ飛ばされた義勇が転がってきた。
「義勇!!」
避難させていたはずの陽華の姿を確認し、義勇が驚いた顔を見せた。
「陽華、大丈夫なのか?」
「うん。向こうで血清を打って貰った。義勇達も打って貰ったんでしょ?茶々丸って人に。」
義勇の顔色がよくなっているのに気付いて、陽華が問いかけると、義勇は首を傾げた。
「茶々丸?俺たちは通りすがりの猫に助けて貰った。」
なるほど。可愛い名前だと思ったら、茶々丸は猫だったか。陽華は納得行ったかのように頷いた。
「私、本来の役割を忘れてた。…今、戦術を練るから、もう少し時間を稼いで?」
陽華の自信に溢れた顔に安堵し、義勇は微笑んで頷いた。
「承知した。」
そう言って戦局に戻ろうとする義勇の背中を、陽華は呼び止めた。
「待って、義勇!……私、もう引かないからっ!私を守ろうとするのも禁止!!……今度、足手纏いにしたら、村田と浮気するからねっ!!」
「なっ!?」
陽華の一言に、義勇は衝撃を受けたように顔を真っ青にさせた。
「そ、それは駄目だっ!」
「いいから、とっとと行ってこいっ!」
陽華の元に戻ろうとする義勇の足を蹴りつけた。