第36章 最終決戦 鬼の始祖 前編
「ねぇ、愈史郎君。この薬、まだたくさんあるの?」
陽華は、愈史郎が炭治郎に打った注射器を指差して問いかけた。
「あぁ、それなりに持ってきてはいる。」
「じゃあ、向こうで戦ってる人達にも打ってあげたいんだけど。いいかな?」
陽華がそう頼み込むと、愈史郎は静かに首を振った。
「その心配はない。さっき、茶々丸が向かったのを見た。」
「ちゃちゃ…まる?」
初めてに耳にする名前に、陽華は不思議そうに首を傾げた。
「俺の仲間だ。血清を持っている。」
「…ほんとに?ありがとう!!」
感動した陽華は、思わず愈史郎に抱きついた。
「何をしてる、離れろっ!」
愈史郎は陽華の頭を掴んで引き剥がした。しかし、その頬は少し赤くなっていた。
「…俺と茶々丸は頼まれた仕事をしているだけだ。それに…感謝してると言うなら、一つだけ俺の頼みを聞いてくれ。」
愈史郎はそういうと、陽華の目を真っ直ぐに見詰めた。
「…無惨に、俺の大事な人を殺された。必ず、仇を討ってくれ。」
怒りと悔しさに、愈史郎は顔を歪ませた。
愈史郎の大事な人とは、一緒に来たと言う協力者のあの女性のことだろうか?と、陽華は直感的に思った。
初めて無惨と対峙した時は傍らにいたが、今は見当たらない。復活した鬼舞辻によって殺された可能性が高い。
それと同時に驚きもした。鬼にも他者に対して、そんな感情が存在するのだと言うことに。
「うん、わかった!戦線から外されちゃってる私が言うのもどうかと思うけど…。私の自慢の仲間達が…鬼殺隊の皆が、今夜必ず、鬼舞辻無惨を倒すから!!」
陽華が、自信に溢れた顔を向けながら言うと、ずっと顔をしかめていた愈史郎が、僅かに微笑み返してくれた。