第36章 最終決戦 鬼の始祖 前編
行冥の鉄球が音を立てて飛び回り、無惨の横っ腹を貫いたかと思うと、実弥の旋風が触手を吹き飛ばす。
鬼殺隊の中でも最強組の二人、岩柱・悲鳴嶼行冥と風柱・不死川実弥の登場によって、戦局は大きく変わると思った。
しかしそれも、当初こそ優勢を強いたが、長くは続かなかった。
時間が経つにつれて、無惨の無限と言える体力と、並外れた速さと力に押され始めたのだ。そして何よりも、先に無惨の攻撃を喰らった四人の力が、急激に弱まってきたことが原因にあった。そこを突くように無惨の動きが速くなった。
(こいつ、さらに速くなった。どれだけ底が知れないの!?)
陽華は完全に見えなくなった攻撃を、懸命に勘で避けた。しかし避けきれない攻撃が陽華の肩や腿を傷つけ、その度に血が沸き立つような痛みが、身体中を駆け巡った。
その時だった。陽華のすぐ横で戦っていた蜜璃が、避けた筈の無惨の触手に、吸い込まれるように引き寄せられた。
「蜜璃ーーー!!」
ガヒュンっ!
無惨の触手は蜜璃の左頬を薙いだ。致命傷となる攻撃を喰らい、蜜璃はその場に倒れ込んだ。そこに空かさず小芭内が助けに入り、それを他の四人が援護する。助け出された蜜璃はそのまま小芭内によって、後方へと避難させられた。
(何…今の?蜜璃は引き寄せられた…。)
陽華の喉がゴクリと音を立てた。
この有り得ない状況は、その場にいた全員をさらなる不安へと駆り立てた。