第36章 最終決戦 鬼の始祖 前編
「炭治郎っ!!」
陽華は炭治郎に向かって走り出した。しかしすぐに、行く手を阻むように無惨の触手が襲いかかってきた。
「危ない、陽華ちゃんっ!!」
陽華の前に躍り出た蜜璃の刀が、鞭のように撓り、触手を弾いた。
「蜜璃、ありがとう!」
陽華は蜜璃の後ろに庇われながら、チラリと炭治郎の方を見た。倒れたまま、ピクリともしない。無惨の言うとおり、本当に死んでしまったのか。
(お願い、炭治郎。無事でいて…。)
心の中でそう強く願った。
しかし、あの変形した顔、悶え苦しんだかのように苦悶の表情で横たわる炭治郎を見ていたら、一瞬背筋がゾクリとした。
致死量の無惨の血。どんなに小さい一撃でも、致命傷になる。否応なしに走る緊張感が、陽華の身体を支配した。と同時に小さく本音が漏れた。
「…死ぬなら、もうちょっと綺麗に死にたいなぁ…。」
「え?陽華ちゃん、何か言った?」
陽華のまさかの独り言を聞いていた蜜璃が、驚いたように問いかけた。陽華は蜜璃の耳元に顔を近づけると、小さく耳打ちした。
「だって目の前に好きな人がいるのよ。どうせなら綺麗なまま、好いた殿方の胸の中で死にたいじゃない。蜜璃もそう思うでしょ?」
「こんな時に、何言ってるの~!!」
「そう簡単には、死ねないなって事よっ!ほら、来たっ!」
触手が二人に向かって襲いかかり、陽華と蜜璃は同時に違う方向に飛んで避けた。
「お前ら、何やってる!!」
こんな時にこそこそ話をしてる陽華達に、小芭内から叱責が飛んだ。陽華は小芭内に小さく「すいません。」と呟くと、無惨に向かって刀を構えた。
(…相変わらず、打ち込む隙がない。)
でも、やるしかない。陽華は無惨に向かって走り出した。