第36章 最終決戦 鬼の始祖 前編
激しく揺れ動く無数の触手が、陽華に襲いかかった。
(…避けきれない、殺られるっ!)
身構えた陽華の前を、黒い影が覆い被さった。
(…え?)
陽華は一瞬、何が起こったのか解らなかった。しかし、陽華を庇うように覆い被さる若い隊員の、流れたばかりの暖かな血が手に触れ、全てを悟った。
「行けー!進めー!!前へ出ろ!柱を守る肉の壁になれっ!!」
誰かの号令で、大勢の隊員が雪崩れ込むように、陽華達の前に飛び出してきた。
「や…めて…、みんな…、」
今しがた、身体を引き裂かれ、陽華の上で絶命した隊員は、陽華の柱稽古で居眠りしていた男子だった。横を通りすぎて行った隊員も、陽華に呼吸の上手な使い方を教わり、嬉しそうに感謝の言葉を述べてくれた。
柱稽古なんてなかったら、全員死んだ数でしか、知り得なかったかもしれない隊員達。
「今までどれだけ、柱に救われた!柱がいなければ、とっくの昔に死んでたんだっ!」
そういって震えながらも、臆することなく無惨に向かっていく隊員達。
みんな、同じ時間を過ごした仲間で、共に苦しんで、共に笑いあった家族。