第34章 最終決戦 上弦の弐
「…だったら、私も、」
「いいえ。これは薬に精通している私だから出来るんです。私は、三年も前から研究してきましたから。陽華、貴方では無理です。」
しのぶは陽華を諭すようにしっかりと目を見据えた。陽華は何も言えずに、唇を噛み締めた。そんな陽華をしのぶは優しく抱き締めた。
「陽華、貴方の仕事はまだあります。きっと、私の毒だけではその鬼は…倒せない。でも、大打撃を与えることは出来ます。その好機を逃さないでください。」
「…でも私、しのぶの命を掛けてまで…、」
そう言いかけた陽華をしのぶの言葉が遮った。
「わかっているでしょう?私たちの仕事は命を掛けて、鬼を狩ることです。人間を守ることです。上弦を倒せば、何人救えると思いますか?」
そういい、しのぶは陽華に向かって優しく微笑んだ。
「それに、本当の敵はあの鬼ではないでしょう。もっと巨大な敵がいるんです。柱に成れる者はそうはいません。…もしもの時の為に、これ以上は柱を…戦力を減らすわけにはいかないんです。」
それを言われたら、もう陽華には何も言い返せなかった。困惑して表情を強張らせる陽華にしのぶはさらに言葉を続けた。
「陽華、この作戦はカナヲにも説明します。もしもの時はカナヲを任せましたよ。私達の家族を。」
しのぶはいつもの微笑みを絶やすことなく、陽華を見ると、小指を差し出してきた。
陽華は戸惑いながらも、その小指に自信の小指を絡ませた。
「…約束ですよ。」
「……うん。」
そう頷いて、陽華はしのぶに優しく微笑み返した。