第33章 最終決戦 序
「陽華、君は十二鬼月を倒した。今日から《柱》に任命する。…実は今日はもう一人、柱になるはずの隊士がいたんだが、実弥はまだ動けなくてね。」
お館様の発した名前に聞き覚えがあり、陽華は思わず聞き返してしまった。
「さね…み?不死川実弥…ですか?」
「あぁ、そうだよ。そうか、君たちは何度か任務に行ってるね。実弥も別件で十二鬼月を倒したんだ。でもその時に負った傷がまだ癒えなくてね。カナエに止められてしまったよ。」
「そうですか、でも無事で良かったです。」
陽華が笑顔で答えると、お館様の顔が少し曇った。
「実弥と知り合いなら、匡近も知ってるね?…彼は残念ながら、亡くなったよ。」
「…っ!!」
陽華はショックの余り、顔を強ばらせた。
粂野匡近…、実弥の兄弟子で何度も会ったことがある。堅物で融通の効かない実弥を、二人でからかって遊んだこともあった。
その事を思い出し、気付かないうちに陽華の瞳からは、涙が溢れ出していた。実弥の心情を考えるとさらに胸が痛む。
「ごめんなさい、お館様の前でこんな…、」
陽華は堪えきれずに、両手で顔を抑えて肩を震わせた。そんな陽華にお館様は優しく声を掛けた。
「いいんだよ、陽華。君の優しさは強みだ。君にはその優しさを失わずに、持ち前の明るさと笑顔で、鬼殺隊を明るく照らす柱の一人になって貰いたいと思ってる。」
「…お館様。」
お館様の優しい心に討たれ、陽華は流れ出す涙を止められずにいると、旁にいた童子がハンカチを差し出してくれた。しかし、鼻水も流れ出し始めていた陽華はそれを受けとると、思いきり鼻をかんだ。それを見ていたお館様が小さく吹き出し、笑い出した。
陽華は無意識にしてしまった行動を恥ずかしく思い、顔を俯かせたが、お館様が余りにも楽しそうに笑うものだから釣られて一緒に笑いだしてしまった。
あの頃から変わらず、親のいない私達を父親のように優しく包んでくれたお館様。
そのお館様を……絶対に赦さない!