第1章 少年と妹
そこは、辺り一面が白く覆われた、深い雪の山だった。
その山の中を、鬼殺隊水柱・冨岡義勇と氷柱・氷渡陽華は、足早に駆け抜けていた。
師匠に似て、少しだけ鼻の利く陽華が、微かな鬼の匂いを嗅ぎとったからだ。
今は昼間。
空は厚い雲に覆われ、太陽はその姿を隠しているとはいえ、鬼にとっては天敵。もしかしたら、どこかに潜んでやり過ごしているかもしれない。うまくいけば、夜までに仕留められる。
しかし、今まで嗅いだことのないほど、強い鬼の匂いだった。もしかしたら、この匂いは…、
(まさかね…。)
陽華は、自分の中に過った不安を拭うように、首を横に降った。
そんな時だった。鬼の匂いに混じって、血の匂いを感じたのは。陽華は前を走る義勇に声をかける。
「義勇!!この先から、風に混じって血の匂いがするっ!」
「急ごう。」
義勇が足を早めた。その後を、陽華も追う。
もし誰かが鬼によって、傷ついてるなら…
間に合えばいい。陽華は心の中でそう願った。
しばらくの間二人は、静かな雪山を駆け抜けていた。ギュッギュッと雪を踏みしめる音だけが、辺りに響く。
段々と強くなっていく、鬼と血の匂い。
それと共に、感じる匂いに違和感を覚えた陽華は、慌てて歩みを止めた。
「待って!!」
その声に、義勇も足を止める。
「どうした?」
「匂いが2つある。この先と…あっち。」
陽華が指差した方向を義勇はみつめた。
「二手に別れよう。俺はあっちに行く。」
「うん。」
二人はそれぞれの道に向かい、雪が激しくなっていく山を走り出した。