第32章 宴
陽華が義勇の元に戻ると、義勇は隣に座った胡蝶しのぶに絡まれていた。
「冨岡さん、全然お酒が進んでませんよっ!…それとも、私の酒は飲めないと?」
そう言ってしのぶは、義勇のお猪口に酒を継ぎ足した。そして、手に持った徳利を叩きつけるように、机に置くと義勇に毒づいた。
「私、貴方と飲んだら、言いたいことが沢山あったんです。」
そう言うと、しのぶは普段の恨み辛みを淡々と語り出した。
「…だいたい貴方は、いつも言葉が足りないんですよ。…陽華とのことだって…、」
しのぶの言葉が白熱しかけ、義勇は落ち着かせようと言葉を掛けた。
「胡蝶…おまえ、いつも怒ってばかりで疲れないのか?」
義勇としては、しのぶを労って発した言葉だったが、それはしのぶをイラつかせただけだった。
「怒らせてる自覚はありますか?」
しのぶは額に青筋を浮かべて、義勇を睨み付けた。
そこに陽華が「ただいま~。」と、声を掛けると、義勇は急いでしのぶから距離を取るように、席を一つ開けて陽華にそこに座るように促した。
「あぁっ、逃げたっ!」
そう言って怒るしのぶに、陽華は「まぁまぁ。」と落ち着かせるように声を掛けると二人の間に座った。
「陽華~!!」
しのぶは泣きそうな顔で、隣に座った陽華に抱きつくと、義勇に向かって指を付き出した。
「冨岡さん!これだけは言わせて貰います。今度、私の陽華を泣かせたら、私が許しませんよっ!!」
そう言ってしのぶは、据わった目で義勇を睨み付けた。しかし義勇はそれに動じることもなく、お猪口に入った酒を飲み干すと、涼しい顔で言った。
「それなら、もう大丈夫だ。毎日、寝不足になるくらいに愛し合っている。なんなら、さっきもしてきた。久しぶりに見た着物姿の陽華が可愛すぎて、脱がしたくなった。」
「ブッーーー!!」
義勇の言葉に、陽華が口に入れようとした酒を盛大に吹き出した。
「ちょっ、義勇っ!」
陽華が口許をおしぼりで拭きながら、義勇に抗議しようと口を開いた。その時だった。
パリーンっ!