第31章 ※媚薬
「…怒らないで聞いてね?薬を間違えたの…。本当は睡眠薬を…飲ませる予定だったの…。」
そう言って陽華は、義勇を上目遣いにチラッと見た。義勇は一瞬、陽華が何を言っているのかわからずに、怪訝な表情を浮かべた。
「義勇が毎日…その…、求めてくるから…、たまには休みたいなぁと思って、眠らせようと思ったの。」
陽華の言葉を、漸く理解した義勇は、驚きの表情を浮かべ、唇を震わせた。
「お前…睡眠薬まで…使って、そんなに俺と…したくなかったのか…。」
薬の作用でか、熱で潤った瞳と切ない顔が、本当に泣いてるように見えて、陽華は思わず「ち、違うのっ!」と叫んでいた。
「…そりゃ、私がちょっと疲れた…っていうのもあるけど、なんか……義勇が焦っているように見えたから。」
「俺が…焦っている?」
「…私達、長いこと擦れ違ってきたでしょ?時間ももうあんまりないし、今まで無駄にしてきた分を埋めわ合わせしようと、一生懸命になってるんじゃないかと思ったの。」
そう言われて、義勇はハッとした表情を浮かべた。そんな義勇に陽華は優しく言った。
「でもね。そんなに無理しなくていいよ?だって私達、もう八年以上も一緒にいるんだよ?想いを伝える前から、一緒にいて楽しかったし、傍にいるだけでずっと幸せだった。全然無駄な時間なんてなかった。だから、埋め合わせしようとか、頑張らないで?」
そう言って、陽華はニッコリと義勇に微笑み掛けた。義勇は自分の胸が熱くなっていくのを感じ、堪らずに陽華を抱き締めた。