第31章 ※媚薬
義勇の尋常ではない姿に、陽華は慌てて起き上がり、壁に吊るしてあった自身の羽織の内側から、薬袋を取り出してまじまじと見詰めた。そこに書かれた薬名を見て、陽華は驚愕した。
(……精力剤。…うそ。)
一瞬で、陽華の顔は真っ青になった。しのぶを信じて、袋まで確認しなかった。
「なんだ、それは?」
「ひゃあっ!」
突然後ろから、義勇に声を掛けられて、陽華は悲鳴に近い声を上げて、振り向いた。袋を見られないように胸に抱き抱え隠したが、しかし時はすでに遅く、袋を盗み見してしまった義勇は、呆れた顔で陽華に問いただした。
「こんなものを俺に飲ましたのか?」
「ちがっ…、これはっ!」
陽華が言い訳しようと、あわあわしてると、義勇は陽華の後ろの壁をドンッと叩いた。陽華は音に驚いて、目を瞑り、身体を震わせた。
しばらく沈黙が続き、陽華は恐る恐る目を開けると、義勇は落ち込んだように、ため息をついた。
「俺は…お前を満足させられて、なかったのか?」
「…へ?」
「だって、そうだろ?こんなもの飲ますなんて、…要するに物足りなかった…、ということになる。」
義勇は苦しそうに息を乱しながら、悔しさを顔に滲ませた。
「毎日あんなに激しく乱れて、可愛い声で啼いてくれて、何度も絶頂を迎えていたから、満足してくれていると勘違いしていた。」
義勇の言葉に、陽華は火が着いたようにボッと赤くなった。
「そんなに、こと細かく言わなくていいから…。」
「未熟な俺で…、済まない。」
義勇が悔しそうに頭を下げてくるから、陽華は居たたまれなくなって、慌てて説明した。
「ち、違うのっ!義勇は悪くないからっ!…むしろ…毎日に本当に良すぎて、頭を身体もおかしくなっちゃうんじゃないかって言うくらい、満足してる!…って、何言ってるんだろ、私。」
慌て過ぎて、自分でも何を言っているのか、わからなくなった。
「じゃ、なぜ…、」
義勇の切ない顔を見て、陽華は観念したように答えはじめた。