第31章 ※媚薬
「まさか冨岡さんが、こう言うことに、こんな積極的だとは思いませんでした。」
「両思いになったから、お互い歯止めが聞かなくなったっていうのもあるけど…、でもまぁ、夜って言うのもあるよね。」
「…夜?」
首を傾げるしのぶに、陽華は反対に問いかけた。
「しのぶは毎晩、普通に眠れてる?」
そう聞かれて、しのぶは気付いたように、ハッとした表情を浮かべた。
「確かに…、眠れてません。」
「そう。私達、鬼殺隊にとって夜は、鬼退治の時間だから…、」
陽華の言葉にしのぶはコクりと頷き、代わりに言葉を続けた。
「…緊張で気が張り詰めて、自然に興奮状態になる。」
「うん。特に子供の時から、ずっと昼夜逆転の生活を送ってきた私達は、よほど疲れてなきゃ、夜は眠れない。」
そう言って陽華はため息を付いた。
「…前は鬼を狩ったら、その後は休む時間があったけど、今は柱稽古もあるしね…。いざと言う時、寝不足で負けた…とか、しゃれにならないじゃない?」
「さすがに冨岡さんもその辺は考えてくれてると思いますが…、」
しのぶの言葉に、陽華は顔を近づけて小声で呟いた。
「でもアイツ、少し変わってるから…、」
「それは存じ上げてます。」
しのぶが真顔でそう答えるから、陽華は思わず吹き出してしまった。
「そういうことなら…、わかりました。」
しのぶは立ち上がると、薬の入った戸棚を開き、取り出した薬袋を陽華に差し出した。
「接種後、30分くらいで効果が出ます。飲ませ方はご自分で考えてください。」
「ありがとう、しのぶっ!」
陽華は渡された薬袋を大事に羽織の内側にしまうと、しのぶのお礼を言って、蝶屋敷を後にした。
その夜陽華は、巡回警備から帰って来た義勇に、身体が暖まるからと、薬を混ぜたお茶を飲ませたのだった。