第31章 ※媚薬
「は?…夜の営みがキツイから、睡眠薬をくれ…と?」
蟲柱・胡蝶しのぶは、陽華の口から出た予想外の言葉に、思わず聞き返してしまった。
「シー!しのぶ、声が大きいっ!!」
陽華はしのぶの口許を抑えると、辺りを確認するように、見回した。
初冬の澄んだ空気が気持ちいい、晴れた日のことだった。柱稽古の合間に蝶屋敷を訪れた氷柱・氷渡陽華は、診察室で胡蝶しのぶと対峙していた。
しのぶは声のトーンを落とすと、小さい声で陽華に問いかけた。
「何が嫌なんですか?あんなにおもしろ……感動的な告白劇を繰り広げて、鬼殺隊員全員が周知の、誰もが羨む仲になったのに。」
「若干、言い方にトゲを感じるんだけど。」
陽華のツッコミを気にする様子もなく、しのぶは考え込む素振りを見せると、突然思い付いたように問いかけた。
「冨岡さんの性癖が…、あまりにも変態だったとか…?」
「違いますっ!…別に嫌になったとかじゃないの。…ただ、ほぼ毎日なのよ。こっちとしては、柱稽古もあるし、夜の見回りだってあるのに、これ以上は身体が持たないって…いうか。」
陽華がため息を吐くと、しのぶはクスリと笑った。
「こちらとしては、仲が良くて羨ましいかぎりですけどね。…しかし、」
しのぶは意外そうな表情を浮かべた。