第3章 帰郷
「…では、気を付けてな。」
旅支度を整え、戸口に立つ陽華に向かって、鱗滝が言った。
「はい!ありがとうございます。」
「もう少し、ゆっくりしていってもいいんだぞ?」
「いいえ、ここには次の任務に行くがてらに寄っただけです。もう行きます。それに…」
陽華は静かに山の方角を見た。
「錆兎にも挨拶して行きたいから。」
そう言って、ニッコリと笑った。
陽華は戸口の外まで、見送ってくれた鱗滝に深々とお辞儀をすると、山の方に向かって歩きだした。時おり振り返っては、ブンブンと手を降った。
完全に姿が見えなくなるまで、陽華の姿を見ていた鱗滝は、小屋の横から現れた人影に、静かに言った。
「義勇、本当に居なかったことにして、良かったのか?」
「…はい。いいんです、これで。」
そういうと、義勇は鱗滝に向かって深々と頭を下げ、シュッと静かに音を立て、その場を去った。
「ほんとうに…おまえ達は不器用すぎるな。」
去っていった弟子達を思い、深くため息を付くと、鱗滝はそう呟いた。
暫くして、鱗滝は「あっ!」と声を出して思い出した。
義勇の為に作った鮭大根を食わせるの忘れたことを。