第3章 帰郷
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「と、そんな感じで今のところ、全て凪ぎられてます。」
と、目の前に座る師匠に向かって陽華は、涙目で報告をした。
落ち込む陽華の姿を見て、鱗滝もまずいと思ったのか、慌ててフォローを入れた。
「義勇は不器用な男だ。どうしていいのか、戸惑ってるだけかもしれん。」
「師匠…。でもですよ、時間くれって、結構な時間が経ってるんですよ。あいつ、いつまで考えるつもりなんですかね?」
言葉では悪態を付きながらも、泣きそうに視線を落とす愛弟子に、鱗滝は近づき、片手でその頭を自分の懐に引き寄せた。
その暖かさに、我慢していた涙腺が弛み始める。
「お前の強みは、持ち前の明るさだ。お前が笑っていれば、義勇にもいつか届く日が来る。」
そう言って、頭を撫でてくれた。
鱗滝の家に来たばかりの頃、鬼に殺された家族のことを思い出して、夜中に泣いたことがあった。いつも厳しかった師匠は、その日だけは優しく抱き締め、陽華が寝付くまで、ずっと頭を撫でてくれた。
そんなことを思い出しながら、しばらくの間、陽華は師匠の胸で静かに泣いた。
「ほら、食べろ。」
そう言って鱗滝は、ようやく落ち着いた陽華に器に取った鮭大根を渡してきた。陽華はそれを両手に受けとると中身をじっと見つめた。
「師匠、鮭大根…。」
陽華はそう呟いて、何で今、これを出した?とばかりに鱗滝を恨みがましく見つめた。
その目線に鱗滝は慌てふためきながら、
「しょうがないだろう。たまたま作ってたんだから!」
と、言い返した。
「食べたくないなら、食べないでいい。」
そう言ってふて腐れる鱗滝に、陽華は半ばキレ気味に、
「食べますけど!!」
と、言い返し、鮭大根を一口食べた。しっかりと味の染みた鮭大根は、あの頃とまったく変わってなくて、鱗滝の優しさとともに心に染み込んだ。
また溢れだしそうな涙をぐっと堪えながら、無我夢中で鮭大根を掻き込んだ。