第3章 帰郷
「義勇、ありがとっ!…いてっ!」
義勇に抱きつこうとしたら、陽華を抱えた腕に力が失くなり、地面に落とされた。
「危ないだろ!戦闘中に、気を抜くなっ!」
義勇に怒鳴られ、陽華は正座で項垂れた。確かに最近心ここに有らず状態だったとしても、柱として、あんな雑魚鬼に対して、あまりにも情けない戦いをしてしまった。
「…すいません。」
深く反省してる様子の陽華を見て、義勇は長いため息を吐いた。
「もういい。隠が来た。後は任せて、ここを離れるぞ。」
そう言い、隠に的確に指示をして、その場を後にした。
町に帰った頃には、夜は明けはじめていた。町に着くまで、義勇も陽華も一言も喋らなかった。
義勇は、町の手前で立ち止まると、
「俺は次の任務が入ったから、もう行く。おまえは休んでいけ。」
と、陽華に背を向けた。
陽華は慌てて、義勇の羽織の裾を掴んで引き留めた。義勇が驚いて振り返ると、陽華は真剣な顔で、義勇を見つめていた。
「…義勇、怒ってる?」
そう言った陽華の瞳から、涙が溢れ出す。義勇はその姿に戸惑い、視線を外した。
「怒って…ない、ただ、心配しただけだ。」
「でも…ずっと私を避けてるよね?」
陽華が、確信を突く質問を投げ掛けると、義勇は明らかに動揺して、視線を落とした。
「…おまえを、悲しませたい訳じゃない。ただ俺の中で、整理が着かない感情がある。…それは俺の問題だ。」
そう言って、裾を掴んだ陽華の手を、優しく引き剥がした。
そして、悲しそうに瞳を揺らす陽華の顔を見ないように、背を向けると、
「すまない。もう少し、時間が欲しい。」
そう言って義勇は、陽華から逃げるように、その場から去っていった。
陽華は、その背中をただ黙って、見送るしか出来なかった。