第28章 実弥
「こらぁ!!何してんのよっ、あんた達!!」
ちょうど近くを通り、声を聞いた陽華としのぶが駆けつけた。
「何事ですか?隊員同士の切り合いは、隊律違反ですよ!」
しのぶの言葉に、実弥は舌打ちしながら、刀に掛けた手を直した。
「白けたァ、帰る。」
実弥は義勇達に背を向けて、来た方向へ戻って行く。そのあとを義勇は追った。
「待て、不死川。」
そういって、義勇は実弥の手首を掴んだ。掴まれた実弥はぎょっとして振り返った。
「今まですまなかったと思っている。今後は俺も柱として、自分の責務を全うしようと思う。」
義勇の言葉に実弥はまた舌打ちすると、勢いよく手を振り払った。
「今さら遅いんだよ!…うっ!」
そして、義勇の顔を見た実弥の動きが止まった。
陽華は瞬時に悟った。あの捨てられた子犬のような顔を今、してるんだろうなぁと。
実弥はこれ以上見てられないと、顔を反らして、その場から去っていった。
怒れる虎をも懐柔する威力。恐るべし冨岡義勇。そんなことを陽華は思っていた。
「また実弥になんか余計なこと言ったの?」
陽華は義勇の横まで来ると、経緯を問いかけたが、義勇は首を傾げてこう答えた。
「わからない。いきなり絡まれた。」
二人の会話を聞いていたしのぶが、はぁーっとため息を付いた。
「まぁまぁお二人とも。不死川さんの気持ちも考えてあげましょう。(不死川さん、ファイトです!)」
わからないことばかりで、首を傾げる義勇と陽華だった。