第26章 柱稽古の後
あれは鱗滝の元に修行に来て、しばらく経った頃だった。
狭霧山の麓で鱗滝は、二人の弟子と義勇の帰りを待っていた。いつもなら、陽華よりも早く帰ってくる。しかし今日はもう期限の夜が明け始める頃だった。
もう少ししたら、義勇を探しにいかなくちゃいけない。鱗滝は万が一を覚悟していた。
その時、カサカサと音がして藪の中から義勇が姿を表した。
「義勇、何をしていた!」
鱗滝が恫喝すると、義勇はビクッと体を震わせた。おずおずと鱗滝に近づくと、後ろ手に隠した何かを差し出した。
小さな可愛い花だった。
義勇は捨てられた子犬のような顔で、鱗滝を上目使いに見ると、
「鱗滝さん、今日は誕生日だからっ…!…きれいな花見つけて、それで…、」
「義勇……(きゅん)」
その姿が可愛すぎて、鱗滝はこれ以上何も言えなかった。一つ空咳をして、その花を受け取ると「ありがとう。」と呟いた。
そんな鱗滝の横から錆兎がずいっと顔を出す。
「義勇。わかるけど、心配するだろっ!昼間の明るいときに取りに行けばよかっただろ!」
何も言えなくなった師匠の代わりに、義勇を嗜める。義勇は先ほどと同じように捨てられた子犬のような顔で錆兎を見つめた。
「うん、ごめん…。」
「うっ……(きゅん)。わかればいいよ。」
みんな、この義勇の顔に弱かった。
男どもがきゅんとなってるのを知ってか知らずか、義勇は陽華に近づくと、もう一つ花を差し出した。
「いっぱい咲いてたから、陽華にも取って来たよ。」
そう優しく微笑み掛けられて、陽華は自分もきゅんとしていくのを感じた。