第21章 ※刀鍛冶の里
鋼鐵塚の工房を後にした陽華は、里が用意してくれた部屋に荷物を置くと、着替えを持って、里の奥にある温泉施設へと向かった。
基本的に誰でも使っていいが、柱が来れば貸し切り状態にしてくれる。
陽華は温泉に着くと、ルンルンな気分で服を脱ぎ、湯殿に足を踏み入れた。
洗い場で軽く身体を洗うと、ゆっくりと温泉に浸かった。
「あぁ~、気持ちいい!」
陽華が思わず声を上げると、岩場の影になにかが動いた気配がした。
「誰!?」
返事はない。陽華は恐る恐る岩場に近づいた。
「ぎ、義勇!?」
動いた物の正体に気付き、陽華は急いで岩場に身を隠した。呼ばれた義勇は身体をビクッとさせた。振り向きこそしなかったが、背を向けたまま静かに「あぁ。」と返事した。
「びっくりした。誰かいると思わなくて…、」
「外の札は使用中にしといたがな。」
「…あ。」
いつも里の人に気を使われていたから、全然見てなかった。陽華は「ごめん。」と呟いた。
陽華は岩場の影に腰を落ち着けると、義勇に話しかけた。
「でも義勇も、里に来てたんだね。」
「あぁ、今朝方着いた。刀の手入れをして貰いにな。」
「私も手入れをお願いしに来たの。でも鋼鐵塚さん、何も言ってなかったのにな。今日中には終わるって言ってたし。」
基本的に鱗滝一門の面子は、鋼鐵塚にお世話になっている。義勇は陽華の言葉で悟った。
間違いなく、自分のは後回しにされる…と。