第20章 蛇柱
建物を出ると、一羽の鎹鴉が小芭内の肩に止まった。小芭内は鴉の首に掛けられた手紙を外し、差出人を確認すると、さっきまでの仏頂面はどこへ行ったのか、ふわりと優しい表情を浮かべた。
陽華はその手紙の差出人に気付き、微笑ましい気持ちになった。小芭内は後でゆっくりと読もうと思ったのだろう。丁寧に自分の懐に手紙を仕舞った。
「ねぇ、小芭内。任務前に私の事を嫌いだって言ってたけど、私は小芭内のこと、嫌いじゃないよ。」
「なんだ、いきなり。」
「だって…貴方は私と一緒で、本気で片思いをしてるから…。」
陽華の言葉に、小芭内は微かに狼狽えながら、懐に入れた手紙に手を当てた。
「…何を…言ってる?」
「いつも見てるでしょ、蜜璃のこと。」
その言葉に驚いて、小芭内は陽華に視線を向けた。そんな、小芭内に陽華はニッコリと微笑んだ。
「あの定食屋さん…私もよく行くんだ。わざわざ話しかけたりしないけど、たまに見かけるよ。小芭内と蜜璃のこと。あの時の貴方、会議や任務で見たこともない、すごく優しい目をしてるから…あぁ、本当に好きなんだなって思った。」
小芭内は陽華から視線を外し、少し熱を帯びてきた頬に風を送るため、指で口許の包帯を浮かした。
「だとしても、お前と一緒にするな。お前は想いを告げて、相手が傍にいるだろ…あんな奴でもな。」
そう言って小芭内は、陽華を睨んだ。それを陽華は苦笑いで返した。
「…義勇が私の傍にいるのは、それが義務だから。私を恋人として好きな訳じゃない。小さい頃に義勇が自分で自分に掛けた呪縛なの。それを私は利用してるだけ。」
ー もう二度と大切な物を失わないように、強くなる ー
小さい頃に義勇が陽華の前で誓った言葉。義勇にとってそれは家族であり仲間。そこに分類される自分は、義勇から守られる存在。そんな自分の頼みを義勇は決して無下にはしない。だからこそ、陽華は義勇に想いを告げた。
それが卑怯だとわかっていながら…。