第3章 帰郷
「兄の方は、今は山だ。最終試験に挑んでいる。」
「岩の?…斬れそうですか?」
岩を斬る。それは鱗滝一門の最終試験。陽華の問いかけに、鱗滝は少し考え込んでこう言った。
「わからん。初めは優しすぎて、鬼狩りには向かんと思った。…だが、妹の存在が原動力となって、メキメキと力を付けている。要領も悪くない。」
そこで、鱗滝は言葉を切った。そして、何かを考えるように遠くを見た。実際にはお面が邪魔で、陽華には何処を見てるか、わからなかったが…。
「…わしは、切れなくていいと思ってる。」
「師匠……。」
鱗滝はぐつぐつと煮えだした鍋の蓋を取ると、焦げつかぬよう、中身の鮭大根が崩れぬよう、木のお玉でそっと混ぜた。そして鍋の中身をじっと見つめて言った。
「ここ数十年、何人もの子を最終選別に送ってきたが、帰って来たのは、おまえと義勇だけだ。…わしは育手に向いてないのかもな。」
そう言って、ふーっと深いため息を付く鱗滝に、陽華は慌てた。
「ししょー!その二人は今、柱ですよ!元気出してください!…まぁ、義勇は認めてないですけど。」
最後は方は言葉を濁しながらも、陽華は師匠に向けてガッツポーズを向けた。
自分を励まそうとしてくれる弟子の心に気づいたのか、鱗滝は陽華に顔を向けると、優しく微笑んだ。
実際にはお面が邪魔で、陽華にはどんな顔をしているか、わからなかったが。