第3章 帰郷
「ししょー、いますかー?」
ドンドンと戸を叩く音のすぐ後、ガラッと勢いよく引き戸が開いた。
中で師匠の姿を見つけた陽華は、元気よく挨拶した。
「師匠、お久しぶりです!!」
一方、昼食の準備をしていた師匠・鱗滝左近次は、弟子の突然の来訪に、驚いて囲炉裏に運ぼうとした鍋を落とし掛けた。
「普通は戸を叩いたら、家の者が開けてくれるのを待つものだぞ。まったく、おまえは変わらんな。」
「すいません。」
鱗滝に窘められ、陽華はペコッと頭を下げた。
その後、勝手に上がり込んだ陽華は、師匠と囲炉裏を囲んで、座っていた。
出されたお茶をすずっーと、飲み込むと、陽華は鱗滝に問いかけた。
「師匠、義勇が送った兄妹はどうしました?」
あの兄妹と出会ってから、一年ほど経っていた。もっと早く来たかったが、柱の仕事は忙しくて、ここに来たのもかなり久しぶりだった。
「妹は隣で眠っている。もう一年ぐらいになるな。」
「一年も!?じゃ、ここに来てずっと眠りっぱなしってこと?」
師匠の言葉に陽華は驚き、思わず声を張り上げた。
「原因はわからん。でも、義勇の手紙に書いてあったように、人を喰う心配は無さそうだ。初めて会った時も血まみれの死体が傍らにあったが、喰わなかった。」
「そうですか。」
鱗滝の話を聞いて、陽華はふーっと安堵の息を吐いた。
「師匠からいつ『処分した』とか、手紙が来たらどうしよう。ってずっと思ってたんですよ。」
そう言って、苦笑いを鱗滝に向けた。