第17章 炎柱
「義勇、左五歩!」「杏寿郎、右斜め三歩!」
陽華の的確な指示は、確実に鬼を切り刻んだ。もちろん、頸を切らなければ何の意味がないが、鬼に冷静さを失わすには充分だった。
ボロが出始めて、陽華の指示なしで、杏寿郎達にも捕らえられるようになっていた。
やがて、杏寿郎の刀が鬼の頸に向かって振り下ろされた。その瞬間、鬼の眼が陽華に向かって、キラっと光った。
「くそっ、お前だけでも!」
鬼が最後の力で移動し、いつの間にか陽華の目の前に迫っていた。
(やばっ!よけきれない…っ!)
そう思った次の瞬間、陽華の目の前を黒い影が覆った。義勇が陽華を庇うように、立ちはだかったのだ。
「義勇っ!」
気づいた時にもう遅かった。鬼の一撃が義勇の横っ腹を切り裂いた後だった。陽華の目の前に血渋きが舞い、ゆっくりと義勇が膝から崩れ落ちた。しかし、義勇は寸でのところで足を踏み留まると、鬼に向かって刀を構えた。
「水の…呼吸 壱ノ型!……水面斬り!!」
決死の覚悟で踏み込んだ足が、僅かながらに鬼の早さを上回った。義勇の刀は鬼の頸を捕え、その頸は宙を舞った。しかし義勇は、着地しきれずに地面にゴロゴロと転がった。
陽華は急いで義勇に走り寄り、その身体を抱き起こした。
「義勇!!」
義勇は薄く目を開けると、陽華の頬に手を当てた。
「…無事か?…よか……っ、」
最後まで言えず、義勇は意識を失った。
「義勇、しっかりしてっ!」