第16章 ※初恋
義勇によって助け出された陽華は川辺に這い上がると、苦しそうに水を吐き出した。
「ごめん、水の中で足が吊っちゃって。」
息を整えながら、陽華がすまなそうにそう言うと、義勇が心配そうな顔をした。
「大丈夫か?」
「…うん。でも一瞬、師匠に滝壺に落とされた時のこと、思い出しちゃった。」
修行の一環として、子供時代に鱗滝によって、滝に無理矢理叩き落され、死ぬ思いをした事を思い出して、揶揄する。
そんな冗談が出てくるなら、大丈夫だろう。義勇は安堵の表情を浮かべ、
「無事でよかった。」
と呟いた。
しかし、まだまだ寒いこの時期の山で、びしょ濡れの状態は無事とは言えず、案の定陽華から、「くしゅんっ!」と、くしゃみする声が聞こえた。
「大丈夫か?近くに洞窟があったな、そこで火を焚こう。」
洞窟までたどり着くと、義勇は焚き火の準備をし始めた。暫くすると炎が燃え盛り、暖かい空気が洞窟内を包んだ。義勇は、寒そうに震える陽華を目をやると、
「隊服脱いで、これを着てろ。」
と、唯一濡れてない自身の羽織を渡した。
陽華は義勇の死角で衣服を全ては脱ぎ捨てると、義勇の羽織を羽織った。
脱ぎ去った衣服を木の棒に掛け、焚き火に翳しながら、陽華は、心配そうに義勇の方を見た。
「義勇は、大丈夫なの?」
「俺は大丈夫だ。」
そう言い、自分は上の隊服だけ脱いで、火に翳した。
義勇は自分の荷物から敷物を取り出すと洞窟内に敷き、そこに座った。