第13章 ※潜入任務
働き始めると義勇はあることに気がついた。この屋敷にはもう一人の年老いた先輩執事と義勇しか男がいない。後は若い娘ばかりだった。
義勇は一旦、胸を撫で下ろしたが、恐れていたことは夕方に起こった。当主の男が帰ってきたのだ。
当主の男は見るからに下品そうな男だった。夕食時、給仕の仕事で男のテーブルに食事を運ぶ陽華を発見すると、厭らしい目で全身を舐めつけるように値踏みした。
「おまえ、見ない顔だな?」
「はい、今日からお世話になっています。」
陽華がそう笑顔で答えると、男はニヤッと笑った。
「今回は上玉が入ったな。」
男は腰布から伸びた、陽華の白い足を撫で付けるように触った。
「きゃっ!!だ、旦那様!」
「いい足をしとるなぁ。今夜、俺の部屋に来い。」
陽華の足を擦った男の手が上へと移動し、臀部へと近づいた。その時だった。
「旦那様。」
義勇が男の手首を掴んで、それを阻止した。
「なんだ、貴様!無礼だろ!」
男は腕を振り払うと、義勇を睨み付けた。義勇は涼しい顔で男を見下ろすと、
「申し訳ございません。旦那様の腕に虫が付いていたので。」
と、手のひらに乗った黒い塊を見せた。それは虫でもなんでもなかったが、それでも男を騙すのには充分だった。
驚いた男は叫び声を上げながら、椅子から転がり落ち、その反動でテーブルから食器が何枚か落ちて割れた。
何人かの使用人が男を助けに集まった。義勇はさっと、陽華に近づくと、
「大変だ!割れた食器の破片で怪我をしてしまったようです。すぐ手当てをしてきます!」
と陽華の手を掴み、部屋から出た。
「義勇、ありがとう。」
陽華が礼を言うが、義勇は何も言わずにその手を掴んで歩き続けた。