第6章 想いの先に
「晴れましたねぇ」
柔らかな日差しが差し込む通路から身を乗り出し、空を仰ぎ見てサラは呟く。
「ようやく雨の季節も終わりだな」
同じく通路から空を見上げていたラジがせいせいすると言わんばかりに応えた。
午後の課題も終わり、いつものようにお茶の準備をしようと部屋を出ればそこには澄み切った青空があり。
せっかくだから庭でやろうとラジ専用の庭に茶会の場を設け二人に声を掛けたのが数分前。
少し用があるから先に行っていて欲しいというサカキを残し、二人は庭へと向かう途中だった。
「そういえば怪我の具合はどうだ」
「お陰様でだいぶ良くなりました。もう剣を握っても問題ありませんよ」
今日は午前から診察を受け、身体の調子を確かめるために騎士たちの稽古に交ぜてもらっていたのだが、左肩に違和感は覚えなかった。
やや鈍っている感は否めないものの、それも直ぐに戻るだろう。
「あれから一ヶ月か…」
結局試用期間は完全に傷が癒えるまで延長となり、未だにサラは側近候補としてサカキの補助をしながら日々を過ごしていた。
だがそれも今日で終わる。
「__お前は、このまま側近になる気なのか」
ぽつりと零れた言葉は小さく、サラは一瞬反応が遅れた。
そしてあまりの内容に今度は言葉を失う。
「__え、今更やっぱり駄目だって言うつもりですか」
「そうじゃなくてだな!その…正式に側近になれば、危険な目にあうことも増えるだろう」
「そんなもの。側近以前に剣を握れば危険は付き物だと覚悟していますよ」
「これを機にもっと普通の令嬢を目指そうとは思わんのか?」
「殿下は私に普通の令嬢が務まるとお思いで?」
「……無理だな」
呆れたように息を吐くラジに、聞いた側ではあるものの憮然とする。
これでも猫被りくらいは出来るつもりだ。薄っぺらい猫ではあるが。