第6章 想いの先に
「__すべては触れ合いから生まれると言ったな」
触れ合いは想いを生むと。
「__この二ヶ月。お前は何に触れ、何を思った?」
風が吹き抜ける。
鮮やかな緑が舞い、ラジの焦げ茶の髪が揺れる。
陽の光に透かすと僅かに茶が増すことをサラは初めて知った。
(もっと、遠い存在だと思っていたのに)
ふた月前の自分が知ればどう思うだろう。
そんな”もしも”を考え、口元が緩く弧を描いた。
「__何に触れたのか、それを答える必要はないでしょう、ラジ」
触れ合いは一人では起こらない。
誰かが、何かが存在し、その両者が対して初めて起こる。
だから、知らないはずがない。
貴方もまた触れたのだろうから。
「代わりにこれを」
腰から短剣を抜き、そっとラジの前に掲げる。
過度な装飾の施されたそれはどう見ても実用的ではなく、儀礼用に作られたものだった。
「それは……?」
「ユーフェリア家はもともと、代々王家に仕える騎士だったそうです。今は騎士に拘らず様々な役職で仕えていますが…これは、その当時の名残だとか」
生まれた時に作られる唯一の短剣。
騎士として仕える主を定めた時、命と誇りを賭けて主に預けるのだと父から聞いた。
十四でお役御免になるつもりではあったが、一応荷物に入れていた自分の分身を今日サラは初めて腰に差した。
「私の命と誇りを貴方に預けます」
サラの瞳と同じ、瑠璃石が短剣の柄でキラリと光る。