第5章 触れ、生じたのは
「__では、一つ」
頭を上げた陛下の目を見上げる。
「殿下が許してくれるのなら、側近は続けます。それと同時に、彼の友として傍らに在ることを許して頂きたい」
「__そんなことか」
予想外の内容だったのか、陛下は少し目を見開きぽつりと零す。
「てっきりあれの妃にと願い出るのかと思ったが」
「ふぁっ?!めめめ滅相もない…!」
あんまりな内容にサラの方が動揺する。
一介の伯爵令嬢が王太子妃になれるわけがなかろうに、何を言い出すのだこの方は。
サラの慌てようにまぁその話は今は置いておいて、と真顔で流す陛下に一気に体力、いや気力を奪われたように感じサラはぐったりと肩を落とす。
忘れていたがそう言えば陛下はこういう方だった。
「いい。許す」
告げられた言葉に慌てて顔を上げる。
幼い頃父について謁見した時に見たのと同じ、柔らかな眼差しがサラに向けられていた。
「許すも何も、あれが認めるなら私がどうこう言うことではないが、サラ嬢はそれでは納得しないのだろう」
私からも頼む、と陛下は再び頭を下げる。
それを止めようとするサラを手で制し、陛下は言葉を続けた。
「あれはこれからもすぐに挫け、俯き、立ち止まるだろうが、この道を進むのをやめはしないだろう」
嫌ならば逃げ出しても構わないのにな、と語る陛下の言葉は恐らく王としてではなく。
最初から彼はそのつもりで来たのかもしれない。
一国を統べる者としてではなく、不器用な息子の父として話すために。
「サラ嬢が望む間で構わない。あれの傍にいて、無二の友として支えてやって欲しい
__今後きっと、あのバカ息子には必要だろう」
地位や肩書きなど関係なく。
真正面からぶつかり合い語れる存在。
「___はい」
陛下の言葉を噛み締め、咀嚼し、
サラはゆっくりと頷いた。
きっとそれは簡単なことではない。
たとえ互いがそう在ろうとしても、周囲の声が、視線が、それを阻むこともあるだろう。
だけど、それでも、
「私も、そう在りたいと思っています」