第5章 触れ、生じたのは
「__傷はもういいのか」
緊張した空気の中陛下がそう切り出す。
「はい。医師からは日常生活には差し支えないだろうと。まだ剣を握るには不安が残りますが、机仕事ならば可能です」
「少し見せてもらっても?」
問われ躊躇するも、着たばかりの制服をはだけさせ左腕を露わにする。
包帯を解けばそこにはまだ塞がりきっていない痛々しい傷があった。
しばしその傷を見つめ陛下は深く息を吐く。
「__申し訳ないことをした」
「そんな、陛下が謝罪するようなことではございません!」
制服を正し慌てて頭を上げるようお願いする。
見ているのがサラだけとはいえ、そう簡単に下げていいほど王の頭は軽くない。
「いや、こちらの都合に巻き込み、余計な怪我を負わせたのは私の意識が甘かったせいだ」
あいつから預かった大事な娘だというのに…と呟くのは父の名。
そういえばまだ実家に連絡を入れていなかったなとサラは今更ながら思い出す。
倒れていたのだからそれどころではなかったのは事実だが、試用期間もすぎたのに未だ連絡がなくきっとやきもきしているのでは無いだろうか。
不安そうに家の前をうろうろする父の姿を容易に想像できすぐ手紙を認めようとサラは決めた。
「確かにお話があったのはそちらからですが受けたのは私の意思です。それに怪我をしたのは私自身の実力不足故。陛下のせいでも殿下のせいでもありません」
「だがそれでは私の気が済まん。何か必要なものはないか?側近の話も取り消そう。誰か良い相手をというのであれば紹介するが?」
「いえ、それは別に」
大きな傷があると婚約も結びにくい。その配慮だろうが、まだ結婚どころかお付き合いすら考えたことのないサラには不要な申し出だ。
どうしようかと悩むサラに一つだけ思いついたものがあった。