第5章 触れ、生じたのは
薬品の匂いが鼻につく。
意識の浮上と共に全身に感じるのは倦怠感と口渇感。
そして左肩の燃えるような痛み。
薄らと目を開いたサラの視界に飛び込んだのは医務室の白い天井だった。
毒のせいか、ぼんやりとした視界で周囲を見れば白に黒が混じる。
「気が付いたのか!」
「……殿下?」
その声からラジが覗き込んできたのだと気付きサラは思わず声を漏らす。
直後渇いた喉が張り付き咳き込んだ。
慌ててラジが傍に置いてあった水差しを手に取りコップへ注ぐ。
「飲めるか?」
ラジに支えられやっとのことで身体を起こし、コップに口を付ける。
水が少しずつ喉を滑り落ちていき、身体中に染み入っていく。
コップの水が無くなる頃にはサラもようやく意識がはっきりとしてきた。
そして自分の状態に気付く。
「ありがとうございます殿下。もう一人でも身体を起こしておけますので」
「ついさっきまで生死の境を彷徨っていた奴が何を言うか。また倒れて頭を打ったらどうする」
「殿下に介助などさせる訳には……」
「誰もいないのだから気にするな」
誰もいないわけないだろう。
確かにこの部屋にはラジ以外はいないが、命が狙われた王太子を一人にするわけがない。
恐らくは部屋の外に護衛の兵かサカキが待機しているに違いない。