第4章 曇天に差し込む光
前世の記憶が蘇った時点でサラの前には選択肢が二つあった。
一つはやはり自分には無理だと殿下に背を向け王城を去るもの。
一つは適当に側近をこなしながら、一年間を平穏に終えること。
そのどちらかを選んでいれば、物語には関わらずに消えていけるはずだった。
だけど、サラは三つ目の選択肢を選んだ。
「__だって、無理だったから」
最初はただの対抗心だった。
女なんてと馬鹿にするこの王子に、目にものを見せてやりたいと思った。
けれど私は知ってしまった。
ここが『物語』ではないことを。
そうしたらもうどうしようもなくて。
例え定められた未来を書き換えてしまうことになろうとも、あのままラジを放っておくことが出来なかった。
「私も、彼も今この現実を生きている。
記憶の中の紙面より、目の前の現実を大事にしたかった。
それだけだよ」
__それで、未来に影響が出てしまったとしても?
怖くないの?と影は問う。
知っている未来が覆されるかもしれない恐怖はないのかと。
「怖くないよ。だって未来は今を生きる私たちがこれから作っていくものだから」
あぁ、そうか。
言葉を口にしながら私はようやく分かった気がした。
前世がどうとか、運命がどうとか、気にする必要はなかったんだ。
『すべては触れ合いから生まれる』
その言葉がすべて。
記憶に拘っていたのは私だった。
確かにこの世界は物語だったのかもしれない。
けれど、未来を作るのは天上の神ではなく。
まぎれもなく、今生きている私たちだ。
「心配してくれてありがとう」
この影は私の一部。
前世を色濃く映した私自身。
だけど前世は私の『一部』であって『すべて』じゃない。
私はサラ。ユーフェリア家の末娘。
貴方にとっては物語でも、私にとってのここは唯一つの世界だから。
私があまりにも気づかないから、こうして出てきてくれたんだね。
「もう大丈夫だから」
そう言えば、影は安心するようふわりと微笑んで。
そうして消えた。
__頑張ってね
最後にそう言ってくれた気がした。