第1章 最初の出逢い
「いいえ。陛下がお望みなのであればそのお話、お受け致します」
「サラ……」
「いつも自分勝手に振舞ってはおりますが、少しは家のために頑張ることもあるんですよ?」
そう軽口を叩けばユーフェリア伯爵は表情を緩めた。数々の武勇伝を思い出しているのだろう。サラを見る目が優しく細まる。
「昔から君は兄二人にくっついて回っていたからね。刺繍や生け花よりも乗馬や剣術を好んでいたし」
「身体を動かす方が好きでしたもので」
「少年の装いで街に下りることもしょっちゅうあったしね」
「領民の暮らしを直に感じるのは大切なことですもの」
「領境の森まで探検だと称して一人で出かけて迷子になったこともあったね」
「………そうでしたかしら」
自分から振っておいてなんだが少々きまり悪い内容になってきたため咳払いで話を折る。
「それに、国王陛下と王妃様には良くしていただいています。お二人がお困りなのであれば手助けして差し上げたいのです」
父について登城する際、いつも何かと声をかけて下さっていたお二人の姿を思い出す。
身分を感じさせない温かな眼差しからは純粋に旧友の娘を心配する気遣いに溢れていて。
だから。
国王からの命令だからじゃない。
そんなお二人が私の手を貸してほしいというのならば。
「是非やらせてください」
「____分かったよ」
ユーフェリア伯爵は意思の変わらないサラの目を見て頷く。
「期間は十四歳までの一年間だ。だが途中で無理だと思えばすぐに言いなさい。私が陛下に掛け合うから」
「分かりました」
そういう訳でサラは登城し冒頭に至るのだが、早くも後悔の念が渦巻いていた。