第1章 最初の出逢い
時は少し遡り_____
王都シェナザードよりほど近い所にユーフェリア伯爵の領地はあった。
かの家は爵位こそ伯爵とありふれた地位であるけれどもその歴史は深く、陰に日向に王家を支えてきた家柄であった。
現当主も若い頃は王宮にて文官として名を馳せ、陛下とは旧知の仲であると聞く。
そんな格式高い邸の書斎で親子は机を挟み向かい合っていた。
「私が第一王子の側近…ですか?」
サラは言われた言葉に困惑するように首を傾げた。
話があると言われ書斎へ連れてこられたが、飛び出したのはサラにとってまるで寝耳に水の話で間抜けにも言われた言葉を繰り返すことしか出来なかった。
そんな彼女の動揺に共感するかのように、重いため息とともに深く頷いたのはユーフェリア伯爵だ。
「あぁ、その通りだ」
「その、私には過ぎた話というか…何故そのようなお話が?」
「元々陛下は王子殿下に新たな側近を付けることをお考えだったようだ。その、殿下は些か…あー、我が強い半面非常に繊細なお心も持っておられるため帝王学の進みも芳しくないらしく…陛下としては、互いに切磋琢磨できる歳の近い者を宛てがいたいとお考えのようでね。君はよく私と登城していたから陛下も人となりをご存じだ。それで是非にと思ったらしい」
要するにワガママで打たれ弱いので王太子教育も進まず危機感があると。
それは確かに親として、というか王として心配だろう。
思わず遠い目をする。
しばらく黙り込むサラに何を思ったのか、ユーフェリア伯爵は気遣うように微笑んだ。
「サラが気乗りでないのならお断りするから遠慮なく言っていいのだよ」
「お父様…しかし」
「娘に無理を強いらなければならないほど我が家もおちぶれてはいないつもりだからね」
そうは言うものの、王家からの打診を伯爵家が断るのはほぼ不可能だ。仮に可能だとしても家名に傷がつきかねない。
そのようなことはサラにとって不本意なことだった。