第4章 曇天に差し込む光
「サラ!平気か、サラ!」
「聞こえています…殿下はご無事ですか…?」
「こんな時まで人の心配をしてる場合か…!」
「サラ殿」
兵の間を縫ってサカキが駆け寄ってくるのを認め、サラはこれだけは伝えなければと声を振り絞った。
「東の塔に誰かいました…何人か兵を」
「東の尖塔だ!それと森浴の門を封鎖し通行者の確認を!」
すぐさま指示を出すサカキにこれで自分の仕事は終わったと安堵する。
緊張が解けたからだろうか、痛みが増してきたように感じる。
血を流したからか、頭もガンガンと痛む。
「起きられますか?」
サカキが差し伸べる手を礼と共に取ろうと手を上げた時、その指先がぶれた。
平衡感覚が狂い、どちらを向いているのか分からなくなりぐわんと体が大きく揺れる。
これはまずいと、不審がるサカキとラジに距離を取るよう手で制した。
ぴりぴりと痺れる感覚と不快感。
「触れないでください…サカキ様、毒が……」
そこまで言うのが精一杯で、サラはそのまま意識を手放した。
***
どさりという音がどこか遠くに聞こえた。
サカキの手を拒んだサラが、糸が切れたようにその場に倒れ込む。
その肩からジワリと拡がる赤い色にラジは咄嗟に手を伸ばした。
その手を横から強い力でサカキが掴む。
「何をするサカキ!」
「触れてはなりません。どんな毒か分からない以上危険です」
「離せ…!」
そう毒だ。
だからこそ早く助けてやらねばならないのに、なぜ邪魔をする?
サラの白い制服をじわじわと染めていく赤と比例し彼女の肌はどんどん青白くなっていく。
早くしないと手遅れになる。早く助けないと。早く。
「落ち着いてくださいラジ殿下!」
サカキには珍しい荒げた声と強い視線にラジは我に返る。
肩を掴むサカキの手は痛いくらいに力が入っており、彼が憤っていることをラジに伝えていた。