第4章 曇天に差し込む光
加えて最近城内で聞こえてくる黒い噂。
現王政に不満を持つ者たちの活動が活発化してきているらしい。
言っておくが、現陛下は賢君だ。民にも慕われ遠い領地へも気を配り油断がない。
それでも光が強ければ落ちる影も濃くなる。落ちぶれた貴族の恨みも買っていることだろう。
逆恨みもいいところだ。落ちぶれたのも自身が闇に手を染めたせいだろうに。
苛々しながら顔には出さず、サラは努めていつも通りラジの居室を訪ねた。
「失礼いたします殿下」
甘く深い旋律が耳を打ち、言葉を続けようとした口が止まる。
部屋の主は窓際に立っていた。
指がバイオリンの弦を巧みに操り、流れる川のように滑らかに弓を操る。
今の天気など関係ないとでもいうかのように音は楽しそうに、伸び伸びと舞い踊っていた。
やがて高音が震えながら空に消え、「閉めないのか?」と本人から問われようやくサラは扉に手を掛けたままぼうっと突っ立っていたことに気付いた。
慌てて扉を閉め失礼しました、と謝罪する。
「思わず聴き惚れてしまいました。殿下は音楽の才がおありですね」
「そ、そうか?」
「えぇ。殿下の音はまるで慈雨のようです」
しとしとと降り注ぐ、恵みの雨。
まるで生命を吹き込まれた大地のように、欝々としていた心は晴れ軽くなっていた。
「そういえばサラは何か楽器は出来るのか?」
「………」
ふいに尋ねられそっと目を逸らす。
「ピアノを少々…」
「何故目を逸らす」
「察してください」
少々なんて言うのもおこがましい。
なぜあれだけ指をバラバラに動かすことが出来るのかサラにはさっぱり分からなかった。