第4章 曇天に差し込む光
あの王城脱走事件から一週間。
色々と吹っ切れたのか、ラジも以前より表情が変わってきたように思う。
といってもまだ一週間。人間そんな簡単には変われないのは事実。
相変わらず課題には弱音を吐き、すぐに休憩を入れようとするへたれではあるが、周囲の悪意ある声に耳を貸すことは無くなったようだ。
揺るがないというのは強さだ。とサラは思っている。
もちろん柔軟な考えや否定的な意見を取り入れる懐の深さも重要であるが、ここぞというときに信じる芯が自分の中にあるか無いかで人は変わってくる。
変わったことと言えばもう一つ。
あれ以来ラジも積極的に民の暮らしについて調べるようになった。
そう簡単に城下へ繰り出すことは出来ないものの、城に出入りする商人や職人へ自分から声を掛けに行ったり下働きの者たちの様子を見に行ったりなどしているらしい。
最初はそんなラジの行動にやれ天変地異の前触れかどこか身体が悪いのかと臣下に動揺が走ったものの、今では暖かく見守る方向へとシフトしたようだ。
きっとこのままいけばラジはあの漫画のようなバカ王子にはならないだろう。
それ自体はいいことだと思うけれど、そうなると白雪の運命はいったいどうなるのだろうか。
まだ出会わぬ赤髪の少女を思い浮かべ、サラはもしかして余計なことをしてしまっただろうかと不安になる。
こんなにも不安で心が揺れるのはきっと天気のせいだ。
八つ当たり気味にサラは窓からのぞく空を見上げる。
まだ日中にもかかわらず太陽の光は曇天に遮られ薄暗く、今にも降り出してきそうだった。
タンバルンは前世で言う梅雨の時期に入っており、連日雨が続いていた。
今日も午後になればまた降り出してくるだろう。
湿気によりじっとりと張り付く制服に不快感も募る。