第3章 近付く距離
「__いいのだろうか」
小さく漏れた言葉は少しの恐れと希望を滲ませ。
「このまま、私が王太子でも」
「それを決めるのは私でも、貴方自身でも、ましてや悪意ある大人たちでもありません。
陛下である父上様と、この国に住まう民たちです」
「そう……そうだな」
「大丈夫です」
力強く励ますように握る手に力が篭もる。
「殿下は独りで王になるのではありません。足りないところは互いに補い合えばいいのです。そのために、私たちがいるのですから」
光る瞳は力強く眩しいが、先程のような恐れはもう感じられない。
これも”知る”ということなのか、とラジは思った。
それはそれとして。
「私たちと言うが、そもそもお前はまだ試用期間なのだが」
「えっ!この流れでまだ私認められてないんですか?!」
嘘でしょ!と本気で焦る様子に思わず笑いが込み上げ顔を逸らす。
肩を震わせるラジに冗談ですよね?と問うサラの様子は先程までの大人びた空気とはかけ離れていて妙におかしく。
なんとか堪えていたがなにか言ってくださいよぉ!の一言で完全に崩壊し吹き出した。
「わ、笑うなんて酷いです!」
「酷いのはどちらだ、もう色々台無しだ、この…っ」
全てが吹っ切れた訳ではない。
まだ迷いも、自分が目指す存在に足りない歯がゆさも胸の内に燻っている。
それでも、今はまだそれでいいのだと思えた。
王太子に向いているのか、いないのか。
そもそも自分は王になりたいのか。
結論を出すためにはまだまだ色々なことを知る必要があると分かったから。
今はまだ、もがき続けてみようじゃないか。
不格好ながらも、自分らしく。