第3章 近付く距離
何をやっても凡才な自分が、王太子たり得ないと陰口を叩く連中にできるせめてもの抵抗がそれだけだっただけで。
所詮ただの意地のようなものだった。
「殿下は既に行動を起こすことが出来ています。ただ、それに見合う想いがまだ追いついていないだけ。"第一王子だから”なんていう義務感だけでやっていけるほど、王太子の座は甘くありません」
貴方は知る必要があります。
貴方が守りたいものがはたしてどんな存在なのか。
そう語るサラの目には同年代とは思えない強い光があり。
それは己には眩しく過ぎて恐ろしくもあり、思わずラジは俯いた。
話は分かる。理解も納得も出来る。
だが__
込み上げる不安に押し上げられるようにラジは口を開く。
どろりと胸に沈むのは過去の嘲笑か、侮蔑の視線か。
「想いや努力だけではどうにもならないことだってある。結局は結果が伴わなければ王太子としては不適格だ。どれだけ努力したって、私はイザナ王子のようにはなれない」
必ずと言っていいほど引き合いに出される隣国の王子。
顔すら知らない彼の存在は重くラジへとのしかかっていた。
「なぜ殿下がイザナ王子のようになる必要があるんですか」
それはまるで重く絡みつく枷を吹き飛ばすように。
俯いていた視界の先で細く、ややささくれだった手がラジの手を握る。
持ち上げられる手を追うようにラジもまた顔を上げ、そうして瑠璃色の瞳と目が合った。
「確かにイザナ王子はよく出来た方です。近い将来、きっとクラリネスの良き王となるでしょう。
__ですが、タンバルンの王とはなり得ない。
この国の王太子は貴方です、ラジ・シェナザード殿下」
貴方は、貴方らしい王になればいい。
「少し情けなくたって、おバカだっていいじゃありませんか。王の器は、決して能力だけで量れるものじゃありません」
「おい、バカは余計だ」
「情けないのは訂正しないのですか?」
「まだ側近でもない年下の娘に諭されている時点で多少は自覚している」
「まだ認めて下さらないとは、心外ですね」
軽口にくすくすとサラが笑う。
その笑い声に、ふと心が軽くなるのを感じた。