第3章 近付く距離
「私の父が言っていたんですけど」
黙って見下ろしていたサラがそう呟いた。視線は王都へ注がれたまま、記憶の父を思い出すようにその眼差しは暖かい。
「すべては触れ合いから生まれるって」
言葉で、身体で、直接触れればそこには想いが生まれる。
想いには意志が宿り、意志は行動を生み、行動は流れを生む。
そうしてできた流れはきっと皆をより良い未来へ導いてくれるはずだからと。
まだ幼いサラを馬に乗せ、領地を見て回りながら父が優しく語った言葉はサラの原点となった。
「だからうまくいかない時とか、へこんでる時はこうやってよく市井に紛れ込んでいたんです」
こうするとよく見えるから。
そこに住む人々の営み。
どんなことに笑い、泣き、怒り、日々を過ごしているか。
「領主の娘じゃない。ただの”サラ”として接してくれる、その度に思うんです。”あぁ、好きだなぁ”って」
領地だからじゃなく。
そこに住む人々が、触れ合った彼らが、大好きだから。
だからまた頑張れる。守るために。
「殿下は王になる素質などないと仰いましたが、私はそうは思いません」
誰もいないのをいいことにいつもの呼び名へと戻ったサラが初めてラジの方を向いた。
灯る明かりが反射しきらきらと深い海の色に光る瞳に目を奪われる。
「だってあなたは努力することを知っています。心無い言葉に傷つきながらも、先に進もうともがいている」
「__努力と言えるものでもないがな」
「確かにすぐ弱音は吐くわ挫けて挫折するわ散々ですが」
「おい」
こいつは私を上げたいのか落としたいのか。
「でも、最初から出来ないと逃げ出すことはしないでしょう?」
「………」
沈黙は肯定。
だがそれは向上心などというおキレイな精神から来るものではない。