第3章 近付く距離
ぴりりと舌を刺激する味付けをされた肉はそれだけでは辛いと感じられそうだが、レタスや生地と一緒に食べることで程好い刺激にまとまっていた。
もぐもぐと頬張るラジはどうです?と感想を求めてくるサラに呑み込んでから「濃いな」と答える。
「王宮じゃこんな味付けしていたら首が飛ぶ」
「もう!そんな言い方しなくてもいいじゃないですか」
「だが、うまいな」
ラジの返答に怒りかけたサラだったが、続けられた言葉にその眦を細めですよね、と笑った。
「農作業中の片手間で食べる料理らしいですからね。汗をかいた時は塩分を摂取するために少し濃いめの味付けが好まれるんですよ」
「なるほど、道理で」
「ソースも色々あるらしくて、子どもでも食べられるように甘い味付けもあるらしいですよ」
「よく知ってるな」
「さっき世間話してる時に聞いちゃいました」
いつの間にそんな情報を仕入れていたのかと驚く。話しながら食べていれば大きいと思っていたティーリスはあっという間になくなっていた。
腹を休ませていると陽気な音楽が流れてくる。音の出所に目を向ければそこにも人だかりがあり、中心ではやや派手な衣服をまとった数名がナイフ投げや手品を披露していた。
「旅の大道芸ですね、うちの領地にもよく来ていましたよ」
「見たことがあるのか?」
「えぇ、このように変装してよく見に行きました。最も領民にはバレバレでしたけれど」
聞けばサラは昔から領地へ顔を出すことが多く、ほぼ顔見知りだったとか。
道理で令嬢としては世間慣れしていると思ったと納得する。
わっと歓声が上がり思わず目をやる。どうやら一番の見せ場が終わったところらしい。優雅に礼をする大道芸人に向かって観客が拍手を送っていた。