第3章 近付く距離
ところが、こうやって物理的に振り回されることは意外にも一度としてなかった。
臣下としての立ち位置を踏み越えることはなく、ましてや規律を破り城の外に連れ出すなどリスクの高いことをするような人物ではない。
ならば何か狙いがあるのだろうとも思うが、ラジには訳が分からなかった。
推察されるのは先程の一件だが、それとこれが一体どう結びつくのか。
「ラジ殿下?」
「うおっ?!」
頭を悩ませていたラジはサラが足を止めているのに気づかなかった。すぐ近くの瑠璃色の瞳と目が合い驚き声を上げる。
「お、驚かすな!」
「殿下が勝手に驚いたんじゃないですか…ところで、ここから先は呼び名を変えていきましょう」
さすがに殿下と呼ぶのはバレバレですので。とサラは大通りへ目をやる。
「ここから先、私はアジルと呼びます。私のことはそのままで結構ですが、あまり王族貴族を匂わすような言動、口調はなされないよう注意してくださいね」
「…それはつまり、どういう風にすればいいんだ?」
「ですから、こう砕けた感じにタメ口にするとか…」
「タメ口」
「……いえ、無理を言いました。お好きなように話してください」
そうそうに諦めたのかサラは前言を撤回する。
ふいと横に逸れる視線に物申したくなるが実際やれと言われても出来ないのだからぐっと堪えた。
気を取り直したサラが腕を引く。
「さぁ、行きましょう」
***
大通りに出ればそこは予想以上の賑わいを見せていた。
普段馬車の中からしか見たことがない喧騒の中に放り込まれ目を白黒していると、強く手を引かれラジはようやく人ごみから抜け出す。
「大丈夫ですか?」
「なんだこの人の多さは!」
「今日は収穫祭ですからね。王都の人だけでなく商人なんかもたくさん来ているみたいですよ」
ほらとサラが指し示す先には様々な屋台や露店が立ち並び、客を呼び込もうと声を張り上げていた。