第3章 近付く距離
「一体なんでこんなことに…」
「往生際が悪いですよ殿下。ここまで来たんです。せっかくなので楽しみましょう!」
数十分後、ラジとサラは城下町にいた。
思わず勢いに押されついてきてしまったラジだったが帰ってからのサカキのネチネチとした小言を思えば今すぐに帰ってしまおうかと早くも後悔が押し寄せてくる。
そんなラジの様子に気付いていないのか、はたまた気にしていないのか。おそらく後者だろう。
ニコニコと笑いながらサラは外出を喜ぶようにくるりと回った。
「城下に出るのは久しぶりです。たまには羽を伸ばさないと」
平民のワンピースに身を包み楽しそうに笑うサラの姿に一瞬ドキリとするがすぐに頭を振り考えを払う。
(可愛いなどとは思っていない。断じて!)
いつも頭のてっぺんから足先まで隙のない装いをしているものだから新鮮に見えただけだ。
そう。そうに決まっている。
一瞬生まれた動揺を振り払うと、冷静になった頭でラジは前を歩くサラの背中を見つめた。
(一体何を考えているんだ…)
初めて会った時から妙な女だと思っていた。
ユーフェリア伯爵の末の娘。
伯爵令嬢が側近など最初聞いた時はふざけているのかと思った。
どうせすぐに音を上げてやめていくに決まっているとひと月の滞在を許したが、予想に反してサラは側近としてよくできた。
年齢に似合わぬ落ち着いた物腰に年上にも臆さない度胸。
そこらの同年代には負けない剣の腕だって持っていた。
だからといって令嬢として失格かといえばそうではなく、マナーや所作は文句のつけ所がない。
完璧を絵に描いたような立ち振る舞いをするくせに、ふとした瞬間に見せる表情や反応は年齢相応のそれで。
毒気を抜かれたのは一度や二度ではなく、最近では気持ち的に振り回されることもしばしばだった。