第2章 物語の外側
「よく知らぬ者にあのように言われ、見返したいとは思わないんですか?」
「見返すとは具体的にどうするんだ?私がいくら努力しようが、あいつらの満足いく結果など出せやしない。お前もこの半月でわかったろう。私には王は向いてない」
「それは今の段階の話であって、諦めるのはまだ」
「無理なんだ!!」
突然立ちどまり勢いよく振り返るラジとぶつかりそうになる。
同じ目の高さで燃える緑碧玉は様々な感情を宿していた。
「私が今まで一度もあのような話を聞かなかったと思うか?最初は私だって見返そうとしたさ!だが無理なんだ。やればやるほど思い知る。私には王になる素質はない」
どうにもならない虚しさと悔しさ。
目指すものの高さと遠さに無力感が募る。
「私には隣国の王子のようなカリスマ性も実行力もない。不満だというのなら他にもっと相応しい者を王太子に据えればいい!」
吐き捨てラジは俯いた。感情のままに怒鳴る姿はよく目にするが今のように傷つき痛々しい姿は初めて見た。
前世の記憶で未来の彼を知っているから、今の彼のことも全て分かっている気になっていた。
昔からワガママで、バカ王子で、周囲の評価など全く気付いていないお気楽な王子なのだと。
あぁ、なんて浅はかだったんだろう。
周囲の声に全く気づかないわけが無い。
求められているものの大きさに、どうして潰されないと思っていたのか。
目の前の彼は紙面の上の彼とは違うのだ。
細かく震える手をそっと取る。触れる温もりに顔を上げたラジを覗き込みサラは微笑んだ。
「____殿下、街へ行きましょう」
「……は?」
「その服では目立ちますので、一度部屋に戻り着替えましょう。この時間なら裏門の警備をすり抜けられます」
「いや、え?は?」
ずんずんと背を押し部屋へと向かうサラに戸惑うラジ。
「ちょ、ちょっと待て!今の流れでなんで街なんだ?!」
「いいからいいから」
「良くない!だいたい勝手に抜け出てみろ、サカキがなんて言うか…」
「間違いなく怒られるでしょうね。ですので殿下」
一緒に怒られてくださいね。
ニッコリと笑みを浮かべるサラにラジは引きつった笑みを返したのだった。