第2章 物語の外側
「____しかし殿下にも困ったものだな」
ラジの名と共に吐き出された溜息に気配を押し殺し壁に張り付く。
「時期国王という意識の薄さはどうにかならないものか。隣国のイザナ王子はまだお若いというのに既に国王の補佐も務めているらしい」
「素質の違いだろう。まだ陛下もお若い。もしかしたら今後王太子の交代も有り得るかもしれませんな」
「全くですな」
聞いた内容にかっと頭に血が上るのが分かった。
衝動のままに一歩前へ出ようとする。
その肩を誰かがつかみ引き止めた。咄嗟に振り払い振り返れば深碧の瞳と目が合う。
「ラジ殿下…」
「放っておけ」
「なぜ……っ」
「事実に突っかかっていってもしょうがないだろう」
話は聞こえていたのだろう。いつもの感情豊かな彼らしくない静かな表情と声にサラは息を呑んだ。
「事実……?」
「私に時期国王としての意識も素質も足りないのは事実だ」
「そんなっ」
「庇う必要は無い。分かっていることだ」
それよりお茶にしようとラジはさっさと曲がり角を曲がってしまう。
既に先程の者たちの消えた通路を進んでいくラジをサラは慌てて追った。
「……っ、殿下は悔しくないんですか」
足早に前を行く背中にサラは投げ掛ける。
あのようなことを誰の耳に止まるか分からぬ通路で話していた彼らにも、その内容を耳にしながらいつもの様に怒るでもなく受け入れているラジにも腹が立った。
ぶつけ損ねた怒りが腹の中で燻るのをどうにか消化したくてサラは憤りを口にする。