第8章 落とし穴
「ショウヨウジュリンなんて若いのにしっぶいもの飲んでるのね。」
不思議な事で、最初は脳がびっくりしてうまく飲み込めなかったリカさんの顔と声は、1時間もしないうちに慣れてしまった。
黙ってるとデカイ綺麗な女の人。
しゃべったとたんに綺麗な顔のオカマ。
「しょうよう・・・あ。でもこれすっごく美味しいですよ。」
セイさんが思い出したようにまたそこでもくすくす・・・と笑う。
なるほど・・照葉樹林ってショウヨウジュリンって読むんだ。
「けどそれベロが緑色の怪物みたいになっちゃうわよ?せっかくだからもっと可愛いお酒飲んで行きなさいな。ハルが友達連れて来たのなんて初めてだから1杯特別におごってあげるわ」
「僕が連れてきたわけじゃなく、勝手に来たんですけどね」
黒崎の言葉を雪菜はさらりと無視する。
「わぁ、嬉しいなぁ。なにかオススメありますか?」
「そうねぇ、セイが作ってあげて。」
「え、俺?んー・・・そうだな。柑橘系とか平気?」
「はい、全然大好きです!」
あ・・今度は声大きかったかも・・・ってか日本語も変だ。
ちらっと見るとまたセイさんはくすくす笑ってる。
「で、なによー。2人の間には愛も恋もないなんてつまらないわね。まぁ、ハルが誰かを愛したりっていうのはまだまだ難しい気もするけれど。ふふふ。」
「それってどういう意味すか。」
「自分でも気づいてるでしょ?愛するって事を知らないおこちゃまだって。」
「愛することを知らないって言ったらそれはこの人のことですけどね。」
黒崎くんが急に私に振ってくる。
「あら?なに?もしかして恋したことがないとか??」
冗談ぽくリカさんは聞く。
「・・・はい、実は。」
「やだぁー、ホントに!?大学生でしょ!??カッコイイ!とか思ったこともないの!?」
オーバーリアクションでリカさんの煙草から灰がぽろっと落ちる。
HOPEの短い煙草がますます短くなる。
「・・えーっと・・カッコいいな、とかはありますけど…」
あまりにびっくりしたように聞いてくるのでこちらも恐縮して苦笑い。