第8章 落とし穴
「ひどい。一生懸命来たのに。」
「頼んでないよ。」
さらりと、黒崎君は言う。
でも、そのことで彼が怒っていないことはもう分かっていた。
メニュー表もとってもオシャレだった。
アルファベットや、カタカナが並ぶ中、漢字のお酒が目に留まる。
『照葉樹林』
「てる・・は・・じゅ、き?
これにする。」
指をさして、メニュー表を読んでみる。
「そんなものはありません。」
「えー?だって・・てる・・は・・じゅ・・き?」
「さっきと一緒だし。」
全く教える気のない黒崎君の返事。
「っは、くくくくく・・・・」
!?
笑い声に、メニュー表から顔を上げると、すぐ目の前にセイさんがいた。
急に顔が熱くなって、また胸がドキドキしだす。
おなか・・抱えてる。
「セイさん笑いすぎですよ。」
黒崎君は一歩引いたようにしてそんなセイさんを見ている。
セイさんは本当に面白いみたいで、はぁはぁ息をして涙をぬぐった。
「泣いてるし。」
と、黒崎君は冷静で。
「っはぁ・・、ほんと面白いな。出してあげてよ、てるはじゅき。」
(なんて読むの!?)
どっとこみあげる恥ずかしさにいても立ってもいられなくなる。
そんな雪菜をよそに、黒崎君はお酒を造るために少し離れ、セイと2人その場に取り残された。