第8章 落とし穴
「とりあえず、何か飲んできますか?」
「え・・あ・・・うん?・・あ、じゃあ、なんか甘いのがいい。」
カウンターの後ろにはずらりと並ぶ瓶の数々。
色とりどりのお酒の中には、変わった形をしたボトルも混ざっている。
ずっと目で追って行った先には、階段の下で出会ったあの人が立っていた。
熱心に話すカウンター席のお客さんの話を聞いているようだ。
グラスを拭きながら、ときどき静かに相槌をうっている・・・
目が・・離せなくなる。
「黒崎くん、あの人・・」
「そうだ、ここでは、ハルって呼んで。それで通ってるから。」
目は彼を見つめながら、雪菜はこくんとうなずく。
「セイさん?そういえば一緒に店に入ってきてたね。」
・・・セイっていうんだ。
ぽわっと火が灯るようにその単語に輝きが宿る。
雪菜は大事にその名前を心にしまった。
セイ・・って本名?
本当はセイシロウとかかな?
いや、セイシロウ・・って顔ではないな。
セイジ・・とか?
んー・・・それはもっと似合わないや。
あ、逆にイッセイとか、そういうのかな。
「聞いてる?」
黒崎君に呼ばれて、我にかえる。
「あ、店の前でどうしようかまよってぼーっとしてたらたら、彼が声をかけてくれて。」
「・・・不審者だったんだね。」
ふっと、黒崎くんが笑って、メニュー表を手渡してくれた。