第7章 NOVE
口調はさておき、明らかに男の人の太い声だ。
「いらっしゃい♡」
カウンターと厨房が繋がる黒い暖簾から、白いシャツに、黒いネクタイをしたものすごく綺麗な人が出てきてにっこりとこちらに会釈をする。
(今の、この人の声?)
雪菜は状況が飲み込めないまま、ぺこりとお辞儀をした。
黒崎君に負けず劣らずの白い肌。
綺麗な明るい色の長い髪。
くりっくりの目に、まつ毛はカールが施してある・・・美女だ。
背、高っ!
厨房とカウンターには段差があるのだろう、カウンターに上った瞬間にちょっとびっくりした。
黒崎君も結構背が高いのに、それ以上はある。
「マスター。・・・違いますから。大学の友人です。」
黒崎君はめんどくさそうに答える。
「えー、そうなのぉ?」
声、太っ!!!
少し化粧は濃いけれど美しい顔、シャンと着たシャツ姿が宝塚のようなのに・・・声がものすごくふとい。
その声がその口から出ているということが中々頭で理解できない。
「えっ・・えっと・・。」
「ほら、急に出てくるから早瀬さんが混乱してる。」
「アタシ、リカっていうの。ここの店長、よろしくね♡・・・で。ハルとはどういう関係?」
だからただの友達です。と、つまらなそうにあしらう黒崎くんをずいと押しのけて顔を近づける。
「あなたもしかして、ハルのこと好きなの??」
にこっと笑うその唇が色っぽい。
地面を揺るがすような声はやっぱり違うところから聞こえてくるようにしか思えなかった。
リカさん・・・
この人は間違いなく男の人だ。
・・・で、なんだっけ?
ハル?ハルの事が好き?
「ハルって誰ですか?」
って聞こうとした時、黒崎君がリカさんを制した。
「駄目ですよ。
その質問を早瀬さんにしても、嫌いな人以外なら誰でも“はい”って返事しますから。」