第7章 NOVE
彼は何事もなかったように、私をゆっくりと身体から離す。
「・・大丈夫?ここの階段、みんな1回は落ちるんだよ。気をつけて。」
・・・・・・・そして、柔らかな笑顔を向ける。
笑ってる。ってただ思った。
その笑顔にお礼の言葉も忘れ、ただぺこりと頭を下げる。
…ただ助けてもらっただけなのに。
でも、
抱きしめられた、という感覚が頭から離れない。
…そういうのじゃないのに。
階段を踏み外して驚いたからじゃない、明らかに違うドキドキを感じてる。
まだ振動の収まらない胸を抑えた。
――頭を上げると目の間には、木の枠にステンドグラスのついたオシャレな扉が佇んでいた。
彼がドアを開けてくれて、一緒に店内に入る。
店内は薄暗くて、アンティークなシャンデリアがオレンジ色の光を放っていた。
そんな小さな光を浴びて、飴色に磨かれた木のテーブルや床がきらきらと光る。
静かに流れるジャズの音楽・・・全てが混ざり合って落ち着いた雰囲気を作っていた。
外から想像していたよりも店内はずっと広く、カウンターとテーブル席があり、
綺麗なカーテンが掛けられた大きな窓が2つもある。
なんて、呼吸のしやすいとこなのだろう。
雪菜はこのお店を一遍に気にいった。
「ハル。お客さんだよ。」
そう彼が声をかけると、
カウンターに座るお客さんと話している、隣の彼とまったく同じ格好をした人がこっちを向いた。